Interview著者インタビュー

歌って、感じて、広がっていく歌曲の世界
──『岡内淳子歌曲集』著者・岡内淳子インタビュー

「岡内淳子 歌曲集」はロマンチックな歌やユーモラスな歌など多彩なオリジナル楽曲40曲が収録された歌曲集です。美しいメロディと詩的な歌詞が親しみやすく、合唱を楽しみたい方、ピアノの練習に取り組みたい方にぜひ手に取っていただきたい一冊になっています。著者のピアニスト・作曲家の岡内淳子さんは、「ミュージックスタジオJUN」を主宰し、「コールARTE」「もみじコーラス合唱団」「芝三寿会コーラス」などで指導を行う傍ら、FM西東京の音楽トーク番組でパーソナリティを務めるなど、多方面でご活躍されています。岡内さんが長年書き留められてきた楽曲をまとめた本歌曲集に込められた思いや曲にまつわるエピソードなどについてお伺いしました。

歌う人を思い浮かべて生まれた、40曲のはじまり

―― 「岡内淳子 歌曲集」は「ミュージカル ニャーロの一日」に続いて2冊目の出版となります。今回、歌曲集を刊行されるに至ったきっかけをお聞かせいただけますか。

コロナ禍の頃や、その以前から独唱や二重唱で歌う作品をいくつか作ってきました。そうした曲をまとめて一冊にしたいと思ったのが出版のきっかけです。

特にコロナ禍の時期は、外出自粛が続く中で元気を失いがちな人、特に高齢者の方々のためにこれまでとは違うタイプの曲を作りました。年齢とともに体力・気力が低下する状態を「フレイル」と呼びますが、それを予防するため、誰でも簡単にできる振り付けを取り入れ、少しでも体を動かせる曲を作ったんです。本書の「2メートル」は、まさにそうした思いから生まれた一曲です。

ほかにも、歌う人たちのことを想像しながら作った曲も多くあり、そういった作品を中心に40曲を選び、一冊にまとめました。

―― 今回40曲を収録されていますが、これまでに全部で何曲ぐらい作っていらっしゃるのですか。

数えたことはないんですが、100曲はあると思います。私は長年、YAMAHA MUSIC SCHOOL(旧ヤマハ音楽教室)のシステム講師として多くの生徒を指導してきました。YAMAHAの発表会では、既成曲だけでなく、オリジナル曲を演奏することも少なくありません。毎年、7つぐらいグループそれぞれに数曲ずつ提供していたので、自然と曲数が増えていきましたね。

―― 前作に続き、今回も「めでぃあ森」からの出版となりました。“決め手”となるポイントはあったのでしょうか。

 森さんとは、「ニャーロ」を出版する前に西東京ビジネス交流会を通じて、ご縁がありました。その後、本を出したいと考え始めた頃、森さんがFM西東京のラジオ番組で出版について語っているのを耳にしたんです。当時、知人に「楽譜は一般的な出版とは少し違う」と言われ、どうしようかと悩んでいました。そんな中、ご相談させていただいたのが始まりです。一冊目をとても丁寧に作っていただき、その流れで今回の2冊目の出版となりました。

思い出に寄り添い、イメージ膨らむ音楽

―― 本歌曲集には40曲の多彩なオリジナル歌曲が収められています。収録された楽曲の制作の背景についてお聞かせください。

 作品が生まれた背景はさまざまです。先ほどお話したフレイル予防の曲のほか、音楽教室の教え子の男の子たちが組んだグループのために作った曲もあります。彼らが音楽祭やYAMAHAの大会に出場した際、音域を考えながら、クラシックとポップスを掛け合わせたオリジナル曲を作りました。そうした楽曲もこの本に収めています。

 また、プロ歌手の方の声を実際に聴き、「この声のイメージに合う」と考え、その声の可能性を広げたいという思いを込めて曲を作ることもあります。

―― 歌詞を拝見すると、希望や温かなぬくもり、励ましを感じさせてくれる歌、童心に返るようなユーモラスな歌など、幅広い世界観が印象的です。作詞・作曲の際に大切されていることはありますでしょうか。

聴く方が自分なりのイメージを膨らませ、思い出と重ねながら聴いてもらえることを大切にしています。

例えば「あなたに」は、社会人になってから、もっと学びたいと教えを乞うた恩師をイメージして書きました。ずっと会えなくて、そろそろまたレッスンをお願いしたいと思った矢先に、その先生が亡くなっていたことを知りました。もう一度お会いして、最後のレッスンを受けたかったという思いをこの曲に込めています。聴く方それぞれの大切な人を思い浮かべながら聴き、歌ってほしいと思います。

また、イメージする “間”も意識しています。現代は、言葉も多くて忙しい曲が多いと感じます。もう少し“間”、余白を持たせ、聴く人がじっくりとイメージを感じられるような曲を作りたいですね。

すべてがゆっくりした曲じゃないんですよ。例えば「どろんこ色の獏~バク~」は、チョコレートが大好きなバクの歌で、バレンタインデーのようなウキウキする気分を描いた一曲です。

歌は自然に生まれ、誰かへ届いていく

―― 100曲以上ある中から、どのような基準で40曲を選ばれましたか? 曲順や構成にこだわりはありますでしょうか。

まず「この曲だけは外せない」と思う曲を選び、多くの人に歌ってほしい作品を中心に収録しました。

楽しい曲の後にゆっくりした曲にしようとかそういった曲順はあまり意識してなくて、クリスマスの歌をまとめた程度です。

工夫した点としては、挿絵を入れたところでしょうか。どの曲にも自分の中に映像のイメージがあり、それを伝えるためイラストを添えました。楽譜や歌詞を通して、読む人それぞれの映像が思い浮かべばいいなと思いますね。

―― 曲を聴いた人が自然と映像を思い浮かべるようにするために、何か意識していることはありますか。

最初から何かイメージがあってメロディーを作る、というわけではないんです。メロディーはどちらかというと自然に出てくるので、「これ、いいな」と感じたものがバーッと歌詞になる感じです。

例えば「あの日」という歌は登場人物がいる情景を思い描きながら作った曲ですし、「蒼い風」は倉敷の美観地区を訪れ、歩いた時に湧きあがったイメージから生まれました。

―― 収録された40曲の中で、特に作詞・作曲に苦労した曲はありますか。

 正直なところ、曲作りで苦労することはあまりありません。メロディーが浮かんだら、チョコチョコッと書き進め、「こんな感じにした方がいいかな」と調整しながら仕上げていきます。途中で止まってしまい、未完のまま終わるということはほとんどないですね。

―― すばらしいですね。一曲完成させるのにどれくらい時間がかかるのでしょう。

メロディーだけなら1時間もかからないと思います。ただ、どんな伴奏をつけようか、イントロはどうしようかなどと考え始めると、もう少し時間がかかります。

電車の中で思いついて楽譜を書き、家に帰ってピアノで弾いてみると「ちょっと違うな」と感じて手直しすることもあります。

―― 特に気に入っている曲や、多くの方に歌ってほしい曲はありますでしょうか。

お気に入りは「バク」と「あなたに」、それから「心の笛」です。この曲は映画にも使われました。

どの歌も多くの方に歌ってもらいたいのですが、一つ挙げるとしたら「Xmas Dance(クリスマス ダンス)」でしょうか。二番の歌詞を読んでいただくとわかると思いますが、恋人同士のダンスというより、皆で踊る平和な世界を願った歌です。クリスマスに世の中が平和になりますようにという願いを込めて作りました。

歌から広がる世界、そしてこれから

―― 前作同様、表紙・裏表紙のデザインを岡内さんご自身が手掛けられていらっしゃいます。今回の表紙についてこだわりなどについて教えてください。

 表紙は歌曲集に収めた「ふたりの夢」がモチーフです。歌詞に夜空や流れ星の情景を描いていますが、実は一緒に夜空を見上げているのは恋人ではなく、犬なんです。私が飼っていた犬はアフガンハウンドで、名前はラヴェル。散歩の途中、よく立ち止まって一緒に夜空を眺め、話しかけることがよくありました。そうした日常の光景を歌にし、そのイメージを表紙のイラストにしました。

―― 本歌曲集は 2025年11月13日に出版されました。出版後、周囲からどのような反響がありましたでしょうか?

合唱団では教材として配布しました。すでに歌ったことのある曲もあり「これ、知っている」といった声や、「たくさん、曲があるんですね」という反応がありました。

これまでは楽譜をコピーして配っていましたが、本になったことで読みやすくなったという感想も貰いました。広げやすい綴じ方で、楽譜にAやBといった記号を入れてくださっているので、練習の指示もしやすいですね。

出版後にピアノ伴奏をしたコンサートでは、私の曲を歌った方以外からも「この本、ほしいです」と言っていただきました。

―― これからこんな歌曲集を作ってみたいといったお考えはありますか。また、演奏会やイベントなどのご予定があれば、ぜひお聞かせください。

フレイル予防を目的とした、手を動かしながら歌える曲は、ほかにもあり、高齢者の方だけでなく、子どもにも楽しんでもらえる手遊び歌をまとめた本を作ってみたいですね。

また、短いものから長いものまでピアノ曲もいくつか作っており、いずれはまとめて出版したいと考えています。

演奏会としては、3月と7月に年2回、サロンコンサートを開催しています。今年も同様に続けていく予定です。

さらに、2012年初演のミュージカル「Dark Knight~暗闇の騎士~」にも再び取り組みたいと思っています。当時、出演していた子どもたちも今では大学生。演じた役を変えたり、新しい役を加えたりしながら上演してもいいですし、コンサート形式で作品を紹介するのもいいなと考えています。

―― 岡内さんが作った歌曲は、コーラス愛好者だけでなく、年齢や経験を問わず楽しめる曲がそろっています。楽譜を開き、声に出して歌えば、思い出や懐かしい風景が浮かび上がります。ぜひ手に取って、歌い、感じる時間を楽しんでみてください。

(取材・文/小田中雅子)

【著者プロフィール】

岡内淳子
4歳よりピアノを始め11歳から声楽を学ぶ。
音楽大学在学中は合唱団の伴奏・指導に力を入れる。
東邦音楽大学音楽学部ピアノ科を首席で卒業し、読売新人演奏会ではピアノ独奏と声楽伴奏で出演。その他、ピアノコンチェルトやソロ・合唱等の伴奏活動を続ける。
ピアノを井上純子・神谷郁代・宮島敏・吉村昌子、声楽を有山静枝・林祐次の各氏に師事。
2007年公開された映画『虹色ハーモニー~マイレインボーマン』の挿入歌「心の笛」を作詞作曲し、出演する児童劇団に合唱指導。
2012年ミュージカル『Dark Knight~暗闇の騎士~』を手がけ2013年初演。
同時期よりFM西東京ラジオ音楽トーク番組「ARTEがKnight Da J★」にオリジナル楽曲を加えた構成を担当し出演中。
2021年ミュージカル曲「ニャーロの一日」(めでぃあ森)を出版。
現在、YAMAHAシステム講師、コールARTE・もみじコーラス合唱団指導、ミュージックスタジオJUN主宰、西東京文化芸術振興会理事。