Interview著者インタビュー
伝えたかったのは
“地方にある、都会にはない勝ち筋”
──『地方で勝つ』著者・金子大祐インタビュー
「地方で勝つ」は、Uターン・Iターンで地方ビジネスに挑戦したい人、地方で新たにビジネスを立ち上げたい人にとって“実践の教科書”となる一冊です。 著者の金子大祐さんは、父親の急逝をきっかけに東京から三重県津市へ戻り、祖父の代から続く不動産会社を承継しました。 本書では、地方の現場で身をもって掴んできた「勝ち筋」を、マインドセットから具体的な実例まで体系的にまとめています。 今回は、出版のきっかけや制作過程での苦労、そして次回作の構想について伺いました。

都市ではなく地方で勝つ。その根拠と出版に込めた思い
―― 地方をテーマにした本は「移住」や「地方創生」を軸にしたものが多い印象です。地方ビジネスに真正面から切り込み、ノウハウに特化した本書は、新しい切り口だと感じました。出版のきっかけを教えてください。
東京から地元に戻り、不動産会社を継いで3年になります。この間、とにかく事業を再構築するために無我夢中で走り続けてきました。そこで得た経験や知見は、私と同じように地方で事業承継や起業に挑む人にこそ役立つのではないか。そう考えたことが出発点です。
地元で事業を進める中で感じたのは、「ビジネスチャンスが目の前にあるのに、一歩が踏み出せない人が多い」という現実でした。従来のやり方に固執する経営者も多く、また会社員の方々も起業に対して積極的になれない。そんな状況を目の当たりにし、同じように挑戦しようとする人の背中を押せる指針を示したいと考えました。
―― 本書では地方において都市部にはないビジネスの“優位性”があることを繰り返し述べられています。こうした“優位性”は実際に地方で事業をしている方でも気づきにくいのでしょうか。
東名阪でのビジネス経験がある人ほど、地方のメリットを理解しやすいと感じます。都市部は人口が多く、集客も大きく、ビジネスの規模も自然と大きくなります。その成功モデルに価値を置くのは当然ですし、私もそれ自体を否定するつもりはありません。
しかし、地方には地方ならではの勝ち筋があります。実際に事業を進めるなかで、「競合が少ない」「固定費が低い」という都市部にはない強みを日々実感しました。一般的に“市場規模が小さい”ことはデメリットと捉えられがちですが、視点を変えれば大きなメリットになり得ます。
本書を通じて、こうした“地方の優位性”に気づき、地方でビジネスに挑戦する気持ちを少しでも後押しできれば嬉しいですね。

「信頼して本づくりができるか」──著者がめでぃあ森を選んだ理由
―― 出版にあたり複数の出版社を検討されたと思いますが、最終的に「めでぃあ森」と組む決め手は何だったのでしょうか。
いくつかの出版社と話しましたが、「ここなら一緒に本づくりができる」と強く感じられたのが「めでぃあ森」さんでした。代表が自ら面談してくださり、表面的な営業トークではなく、本音ベースで出版に向き合う姿勢を示してくれたんです。おかげで完成形のイメージまで鮮明に描くことができました。
原稿送付から出版するまで、長い期間コミュニケーションを重ねることになりますから、率直に話せる関係であることは大切です。また、代表は決裁権を持っているため、こちらの相談や提案に対しての判断が早く、話がスムーズに進む点も大きな魅力でした。
―― 本の完成イメージは、当初から明確にお持ちだったのでしょうか。
かなりはっきりとありました。私はビジネス書を読むのが好きで、これまで相当数の本に触れてきました。その分「自分が出版するなら、こんな本にしたい」という像が最初からありました。タイトルはオーソドックスなビジネス書らしさを踏まえつつ、装丁は現代的でクールなデザインといったイメージです。
実は、初めにご提案いただいた装丁のデザインは私の好みとは少し違っていたんです。「これはあまりカッコよくないですね」と率直に伝えたところ、しっかり調整してくださって、結果的にイメージ通りの仕上がりになりました。
なぜ「伝わる文章」にこだわったのか──著者が語る執筆の舞台裏
―― 執筆の過程で苦労した点、特に意識して取り組んだことはどんなところでしょうか。
最も神経を使ったのは、自分の考えを“文章として正確な形にする”という作業でした。書くべき内容自体は初めから明確に決まっていたのですが、いざ文章にしてみると、思考の一部が抜け落ちていたり、伝えたいニュアンスと微妙にズレてしまっていたりといった箇所が散見されました。
そこでまずは、頭の中にある考えをすべて書き出し、その上で「文章が与える印象」と「本当に伝えたいことのニュアンス」がぶれないよう丁寧に整えていきました。
特に気を使ったのは第1章です。第2章以降は、起業、不動産投資、フランチャイズなど具体的なノウハウを扱う章なので、比較的“ズレにくい”のですが、第1章は本の入り口です。読者を引き込む役割を担いますし、地方のメリット・デメリットやマインドセットといった抽象的なテーマを扱います。そのため、伝えたい意図が正確に伝わるよう、表現の選び方には最も気を遣いました。
また、自叙伝に寄らないようにすることも大切にしました。
―― 自叙伝のようにしたくなかったのは、どのような理由からでしょうか。
一番の理由は、私自身がビジネス書を読むときに「著者の個人的な苦労話は本当に必要なのかな」と感じることが多いからです。ビジネス書を読む目的は、知識や示唆を得るためであって、著者の自分語りを読みたいわけではありません。
そのため本を書く際は、「私は」から始まる文章や、自分のエピソードだけで引っぱる構成は避けるよう意識しました。ただし、実体験に裏打ちされていないノウハウやメソッドでは深みがなく、説得力がありません。知識だけならインターネットで十分ですから。そのため、実体験とそこから導いたビジネスの知見とのバランスを慎重に調整しました。
―― 本書には地方ビジネスで成功するためのさまざまなビジネスモデルが紹介されています。読者に最も伝えたかった“核”となるメッセージは何でしょうか。
一言でいえば「再現性」です。紹介しているビジネスモデルは、どれも特別な才能や極端な環境を必要とするものではありません。ほんの一歩踏み出す勇気さえあれば、地方ならではの強みを生かし、誰でも再現できるんだということを伝えたいと考えました。

地方にこそビジネスチャンスがある──読者に伝えたいこと
―― 2025年10月17日に本が出版されましたが、周囲の反響はいかがですか? ご自身のビジネスに影響はあったのでしょうか。
たくさん本にサインをしました。30~40冊ぐらい(笑)。家族や地元の友人にも読んでもらい、地元の不動産業者の集まりではゲストとして登壇し、本の内容を紹介する機会もいただきました。すでに事業を行っている方が多い場でしたので、特に関心が高かったのは第2章の「地方×デジタルマーケティング」です。言葉は知っていても、集客にどう活かせるかが分からないという方が多く、「すごく勉強になった」「実践してみたい」という声を数多くいただきました。
もともと、自分のビジネスに還元したいという理由で出版したわけではありません。あくまで“地方ビジネスの優位性を伝えたい”という志から始めたことです。ですから、ビジネスへの直接的な影響は今のところ大きくありませんが、本をきっかけに新しい出会いや交流が生まれ、人生が一段豊かになった実感はあります。経営者としてはまだ若輩者ですが、少しは「やるな」と思ってもらえるようになったかもしれません。
―― 商業出版によって全国に本が届くわけですが、どんな人に読んでもらいたいと考えていますか。
全国の読者に届けられるというのは、著者としての醍醐味です。私の周りにも、現在は東名阪で働きながら「いつか地元に戻りたい」と話す人が少なくありません。同じような思いを抱えている人は、全国にたくさんいるはずです。
そうした方々の多くは、地方に戻った後のキャリアや仕事に漠然とした不安を持っています。本書を通じて、「地方にも十分にビジネスチャンスはある」ということを知り、前向きな一歩を踏み出すきっかけにしてもらえれば嬉しいですね。
次に書きたいのは、地方不動産投資の“リアル”と“再現性”
―― 今後の出版計画についてお聞かせください。構想しているテーマはありますか。
不動産投資について書きたいですね。本書でも少し触れていますが、不動産は本業なので深掘りするとそれだけで一冊の本になるほど伝えたいことがあります。とはいえ、今回は“地方ビジネスの優位性”がテーマでしたので、不動産投資だけにページを割くわけにはいきませんでした。
私が経営している会社は祖父の代から地方不動産投資を基盤として成長してきましたし、私自身もUターン後の取り組みでしっかり利益を上げています。そこで得たノウハウや知見は、不動産投資の成功にとって十分“指針”になり得ると感じています。
多くの人にとって不動産投資は身近ではなく、一歩目が踏み出しにくい分野ですが、正しい知識を持って臨めば、誰でも再現できるビジネスモデルです。
―― 不動産投資の本は数多くありますが、どのような点で差別化を図りたいと考えていますか。
都心の不動産投資を扱う本は豊富ですが、地方不動産投資に特化したものはまだ少ないと感じています。ここ数年、空き家問題が注目され、地方不動産に興味を持つ人も増えています。けれど「空き家リノベ」などライフスタイル寄りのテーマが中心で、“投資としてどう利益を生むか”という本質的なロジックまで踏み込んだ本は多くありません。
私自身、Uターン当初は不動産投資の素人で、会社が保有していたマンションを持ち続けるべきか売却すべきか判断できず、本を読み漁った経験があります。しかし地方不動産に特化した実務書はほとんどなく、情報不足を痛感しました。だからこそ、ビジネスとしての不動産投資に必要な専門知識とノウハウを体系的に伝える一冊を作りたいと考えています。
―― 他にはない、金子さんならではの本が出来上がりそうですね。次回作も楽しみにしています。
(取材・文 小田中雅子)

【著者プロフィール】
金子大祐
江戸橋不動産株式会社代表取締役。
1992年、三重県津市生まれ。2015年に株式会社三菱UFJ銀行に入行し、法人営業を経て投資銀行本部にてシンジケートローン・ストラクチャードファイナンス・不動産ファイナンスの企画に従事。2021年には事業承継・資産承継に関するM&Aコンサルタントに転身し、複数社のM&Aを成立させる。2000社以上の企業財務分析を経験。
2023年、父の急逝を契機に30歳で江戸橋不動産株式会社代表取締役に就任。グループで500以上の不動産を保有し、運用。2024年には不動産売買仲介事業を本格再開。クリーンかつAIを活用した不動産新サービス、不動産投資家としての経験、地方デジタルマーケティングを武器に初年度で150件超の受注を獲得。当社15年ぶり自社マンション「アーバンヒルズ」シリーズを建設。同年、地域活性・地方創生を志し、ミフレル株式会社を創業。新規地方ビジネスの創出をメインにフィットネスジム、料理教室、マツエクサロンなど、地方不動産を活用した多角化店舗ビジネスを展開中。


